2018年3月26日 土屋和也さまへ 六通目
こんにちは。桜の開花宣言もあり、いよいよ春本番を迎えました。あたたかい気候が続く今日この頃、わたしにとっては嬉しい季節です。
季節の移り変わりと共に、私も引越しを致しました。この度はそのお知らせと、土屋さまのことが気になりペンを執った次第です。先月23日に出した手紙はお手元に届いていますでしょうか。
前回のお手紙では触れなかったのですが、実は私、土屋さんの高裁判決が気になって、仕事の調整をつけて見に行っておりました。隠すつもりではありませんでしたが、土屋さんを不愉快にする話題なのであれば触れない方が良いのかなと私なりの解釈と判断の末でした。余計なお世話だとすれば、申し訳ありません。その後、いかがお過ごしですか。勝手に心配しております。
日々感じることや願うことなど少しでも共有してくだされれば幸いです。
今日はここでペンを置きます。
2018/03/26 河内千鶴
2018/04/4 返信あり
数日して返信が来た。まず、ほっとした。高裁判決のせいで落ち込んだまま、もう彼からは連絡が来ないかもしれないと思っていたからだ。いつもの茶封筒にいつもの太めのサインペンで記された私宛の手紙を手にした瞬間、私は胸をなでおろし安堵の思いに包まれた。
封を開けると冒頭には、返信が遅れたことへのお詫びや、便りを送ってくれたようだが行き違いであったことなどが書かれていた。他にも漫画の構想の話。花粉症に苦しんでいるという話。短い文章の中にいろいろなことが短く綴られていた。
私がいつも差し入れる記念切手へのお礼の言葉もあった。その後に続いたのは
「一目見てみたいと思うこともあります」。
便箋に確かに綴られたこの言葉にハッとした私はしばらく、後に続く文章を読み進めることができなかった。これまで淡々と冷静にしか言葉を放たなかった彼が初めて、私に興味を持ってくれたようなのだ。
逮捕されるまでの二十数年間、彼が築けなかった対人関係という道。一歩踏み入れる隙もないほど塞がった道無き道を、えいやと自ら切り開いてくれたかのように感じたのは私の思い込みだろうか。私は返信とともに自身の写真を同封した。同時に彼に会いに行く日を決めようと、スケジュール帳を開いた。